新年あけましておめでとうございます。会員並びに関係者の皆様には、お健やかに新年を迎えられたことと、心からお慶び申し上げます。私が全鍍連会長に就任した2014年の新春に、初めて年頭所感を寄稿しご挨拶をさせて頂きました。あれから早いもので、今年で4回目を迎えました。この間、全鍍連は事業承継と情報力の強化に主眼を置いて、人材交流を主体とした「後継者育成」と「人材発掘」の活動を推進してきました。
そして、この蒔いた種が芽生え、実をつけた出来事がございました。それは、昨年4月に発生した熊本地震でのことでした。数社の同業者が被災しましたが、地震直後に、ごく自然に、しかも自発的に若手経営者同士が「LINE」により被災状況確認などの連絡を取り合い、被災した同業者に物資を送るなどの活動が展開されました。今思い出しても感動する、大変素晴らしく喜ばしい行動で、これまでの活動が結実した瞬間でした。
さて2017年を迎え、そう遠くない未来について、年頭の言葉として三点ほど申し上げたいと思います。「日本のものづくりの強み」の代表といえば、自動車や電機・電子産業分野で採用されている機能性素材市場があげられます。しかし、新興国の追い上げ等によって、近年ではそのシェアを落としております。また、製品開発は今までの「長期間の思考錯誤の末に成功する」という常識も変化し、製品開発のスピードはさらに
加速しているのが現状であります。このような変化に対応するため、第一に「今後我々がどのような経営環境の中に置かれていくのか」、第二に「変化に対応するための事業環境の基軸の鍵は何か」、第三に「電気めっき業の継続」について、私の所感を述べさせて頂きます。
第一についてですが、IoT(モノのインターネット)にあると考えます。今のIoTは、中小製造企業にとってツールとなり得るのか正直わかりません。しかし、ネットワークの共有は、いずれ、顧客からの製造過程に於いて、めっき工程の生産管理に組み込まれることは容易に想像できます。
そのため、顧客が要求する製造過程のスピード化に追随できるか否かによって、我々の経営環境が一変する可能性があり、IoTはその重要な鍵を握っていると考えております。
第二については、製品開発のスピードが加速した分、製品のライフサイクルは短縮されます。そのため、いずれ、縦軸の「経営・事業戦略」と横軸の「市場戦略」を見直す時期が来るかもしれません。電気めっき業界に要求されるのは、応用範囲や用途の拡大は変わらないと思いますが、製品開発のスピード化に対応した態勢づくりだと思います。これは、すぐに答えが出ないのが現状です。その鍵は、多くの情報を分析でき、そこから経営戦略を立案できる「ひと」にあると考えます。
そして第三については、第一で述べたIoTと、第二で述べた「ひと」との連携や融合に在ると考えます。現段階でIoTは、現場情報の統合管理によって製造現場における技術・技能の客観化もサポートし、また、従業員の健康チェックなどの作業環境も把握できるので、ヒューマンリスクの回避や事故リスクの低減など、自社の緩み弱みを客観的に評価できるツールになるのではないかと考えております。
このような評価は、どの時代であっても、最終的に「ひと」の判断に委ねられるはずです。「ひと」は人的なネットワークを形成し、自社に即した情報を分析できます。人的ネットワークは、取引先からの紹介や同業者間の情報交換、地元などの異業種交流会、公的機関が主催する講演会やセミナー等への参加などを通じて形成されます。こうしたネットワークによって、製品や技術動向に関して幅の広い情報を得ることで、次の段階に移行できます。IoTで得られた様々な管理情報と人的
ネットワークで得られた情報分析の融合によって、「経営・事業戦略」の立案において改めて自社の強みを認識し、市場戦略には自社の優位性を確認する。すなわち、「めっきの技のこだわり」に結びつくのではないかと思います。
これはBCPにも当てはまります。先の東日本大震災においても、昨年発生した熊本地震においても、被災同業者を支援し、実績を残すことができました。平時においてIoTと人的資源により横断的なネットワークを模索し、先の災害時と同様な取り組みを進化させることで、当業界全体の事業承継にもつながるのではないでしょうか。
全鍍連の平成28年度全国大会のスローガンに、「技のこだわり、日本のものづくりを動かす原動力」を掲げました。特に、メインスローガンの「日本の力 めっきの力」は、我々の事業環境が年々変化する中で、その思いは年毎に強くなっております。IoTは、ネットワーク化の共有によって顧客との距離が近くなります。もしかしたら、「技のこだわり」が顧客にとって新たな評価対象になるかもしれません。そうすれば、パートナーとして適正な取引の推進、素材開発の応用や用途拡大に
つながることも期待できると思います。
今後、当業界にとっては「IoTが鍵」と申し上げましたが、血が通う「ひと」と被災時など自発的に助け合う「こころ」が融合することで、業界全体の技術力がより高く評価されるようになり、「日本のものづくりの強み」から国際競争力を強化した「日本のものづくりを動かす原動力」に繋がることは、決して遠い夢物語ではありません。そして、2017年の「丁酉」に例えれば、植物が育ち切って果実が実るように、当業界にとっても、人材を育むことでその果実ともいうべき電気めっき業界の
活性化につながり、全鍍連が推進している各種事業の集大成となることを期待しております。
最後になりますが、この先も予想される厳しい環境に怯むことなく、会員組合や組合員の皆様には、一人ひとりが心身ともに健全な状態で生業にお励みになれますように、そして、経営者の皆様、従業員の皆さんとご家族にとり、健康で実り多い年となる事を祈念し、新年の挨拶といたします。