令和7年通常総会に於きまして会長を仰せつかりました神奈川県メッキ工業組合の山ア慎介です。たった2年と言う短い任期の中で出来ることは限られてはおりますが、単なる名誉職とは成らぬよう業界発展のため浅学菲才の身ではありますが全力で取組んで参ります。何卒、皆様のお力を賜りたく先ずは伏してお願い申し上げます。
全鍍連会員数がピークを迎えていた高度成長期を経て、不動産、金融関係はもとより製造業を始めとする我々のめっき業もご多分に漏れず、日本中がバブル経済を謳歌した良い時代は終わり、我が国の経済、特に製造業は長く冬の時代を過ごしております。その間には小さな回復期を甘受するも、その度に大きな変化が繰り返され、厳しい環境に適応せざるを得ない試練に幾度となく晒され、今もその試練の真っ只中におります。大きな試練の代表例はバブル崩壊、リーマンショックのような経済災害や、東日本大震災、昨年の能登半島大震災、各地で頻発する豪雨災害などの自然災害が挙げられます。またここ数年、世界中で多くの犠牲者を出し、世界経済の停滞を招いた新型コロナ禍、前世紀のペストやコレラのような感染症パンデミック災害も挙げられます。このような外部環境に起因する試練を幾度も受けながら、ここ数10年はグローバル化と言う大きな波にも対応しなければならなくなったのが平成と言う時代を迎えた頃からでした。令和と言う新しいエポックに入るまでに、製造業を生業とする企業、特にめっきを生業とする企業がどれほど淘汰されてしまったかは現在の会員数が物語っております。また、今日まで多くの試練に耐えて生き残っている企業においても、これから先の試練に耐えられる保証は何ひとつありません。技術の進化はAI、EVに代表される半導体、電子技術の導入により、めっき技術についても変化点の真っ只中で日進月歩の進化を続けており、また地球規模の環境問題、日本においては未曾有の少子高齢化による労働人口の減少に加え、働き方改革、最低賃金の上昇、「歳々年々人不同」の例えの通り、必要不可欠な物づくりは変わらずとも若者の気持ち、社会の変化で人々の考え方は変わる、そして今は100年に一度の大変革期であり、第四次産業革命の時を迎えており、過去の産業革命のときと同じく消滅してしまう仕事、消滅してしまう企業も数多く出てくるでしょう。ひとつの例として車のEV化によって現在受注している多くの車載部品がなくなることが予想され、半面それに代わる新たな部品が今まで以上に大量に必要となっています。新たな世界的成長企業も次々と生まれており、既に早くも第五次産業革命の萌芽が始まっているとの話もあります。
過去の第一次産業革命では蒸気機関の発明により人手作業から機械化へと移行し、多くの製造業が生み出されました。第二次産業革命では電気エネルギーの発明による大量生産時代に入り、多くの製造業がその恩恵を享受し、第三次産業革命ではコンピューターの発明によって自動化が進み、PC関連の製造業、自動車関連産業始め多くの企業が大きく成長し、めっき業も我が世の春を享受しました。ある意味、時代の変わり目はピンチでもありますが、大きなチャンス到来の時でもあります。然しながら時代について行けなった企業、言わば時代と共に進化出来なかった多くの企業が淘汰され、消滅してしまったことも事実であります。例として日本の半導体産業然り、化石燃料を使う車では日本車メーカーは世界のトップを走っていましたが、EV車に変わりつつある現在ではその市場から大きく後れを取っております。また、過去の携帯電話では多くのシェアを誇った日本を始めとする各国のメーカーは、スマートフォンが主流となった今では、その殆どが市場から消滅してしまいました。第四次産業革命が真っ只中の現在では、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック(現メタ)、アマゾン)やエヌビィディア、テスラ、TSMC、ファーウェイと言った過去にはなかった企業が世界を引っ張り、日本においてもそれらの部品を受注しているめっき屋さんは、多少の寒の戻りはあるものの暖かい我が世の春を謳歌し、不景気とは言っても忙しく、日々成長を続けていることも紛れもない事実であります。
チャールス・ダーウィンはその著書「種の起源」中で「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢い者が生き残るのでもない。唯一、生き残ることが出来るのは変化出来る者である」との進化論を唱えています。めっき業界がいつまでも過去の栄光に浸っていても何も変わりません。愚痴を溢していても、傷を舐めあっていても、我が社の技術は凄い、海外には絶対に出来ないなどと過去の栄光、幻想に陥っていても何も変わりませんし、誰も助けてはくれず進化など出来ません。アリとキリギリスの話ではありませんが、我々が過去の栄光にしがみ付き、ぬるま湯に浸かり、10年一日同じことを繰り返し、過去の栄光、貯えで食い繋いでいる間に、あとから来た海外勢がEV車、携帯電話、半導体、再生可能エネルギー、AI等々、多くの分野で進化のスピードを上げ、我々は大きく後れを取ってしまったことを今こそ強く認識しなければなりません。自動車、家電に代表されるかつては世界のトップを独走していた日本のメーカーは勿論のこと、それを取り巻くめっき業界も海外勢との距離が大きく開いてしまったことを業界挙げて再認識し、再度挑戦者とならなければなりません。先ずは経営者の皆さんが意識の変化をしなければなりませんし、進化の過程を皆さんで共有し、個々の企業が変わらなければ業界は変われず、世界と戦うことはおろか、生き残ることすら出来ない時代に突入しています。我々が世界一と自負していためっき技術も、残念ながらQCD+SEM共に既に世界一の座から転落し、もはや周回遅れになり始めているくらいの認識で意識を変えて取り組んで行かねばなりません。経営者の皆さん!「心が変われば行動が変わる、行動が変われば習慣が変わる、習慣が変われば人格が変わる、人格が変われば運命が変わる」です。全鍍連で私が会長を仰せつかっている時間は2年間と短いですが、業界挙げて進化出来る道筋を皆様と共にスクラムを組んで模索し、業界の体質改善となる施策を実行して参ります。先ずは各社さんが不退転の覚悟で自助努力して頂くことが大前提ですが、各地方組合、全鍍連でワンチームとなり共助を確立し、関連団体と情報を共有し、大学を始めとする公設機関のご指導を頂き、経産省、厚労省を始めとする行政のお力をお借りしながら多くの公助を引き出して参ります。
結びとなりますが、我々が生業とするめっきは、紀元前1500年頃メソポタミア北部で金属の腐食を防ぐ目的での錫めっきから始まり、日本では6世紀の古墳時代から採用され、現在に至る工業会の中でも最古の技術のひとつであります。日本のめっき業界は長年、進化を続け、世界のめっき業界をリードしてきた誇りがあり、多くの実績と長い勝ち組の歴史がある業界です。そして何より昨年、組織化された全鍍連青年部には素晴らしい若手経営者、次世代を担う素晴らしい後継者が綺羅星の如くいらっしゃることが解りました。我々のめっき業界、まだまだ捨てたものでもありません。力なきもの、業界の老若男女がスクラムを組み、若い青年部世代を育て、若い方の感性を取り入れると共に先輩諸兄のお力をお借りしながら、名実共に再び輝くめっき業界にするため、皆様と共に歩んで参る所存であります。何卒宜しくお願い致します。
全国鍍金工業組合連合会
会 長 山ア 慎介